神戸グルメゲリラ

ぬっこぬこ、たま~にグルメブログ

小説「忘れられた切符」

僕の隣に座ってた人が席を立った。

車内は、かなり混雑してて、その人は出口に進み難そうに、申し訳なさそうに、人を掻き分け降りていく

ふと、その人が座っていた席に目を移すと、1枚の切符があった。620円、かなり高額な切符だ

 

もしかしたら先ほど降りて行った人が忘れていった切符なのではないか、おそらく、いや間違いなくそうなのである。

まだ電車の扉は開いていたが、発車のベルが鳴り始めていた。

取り敢えず切符を手に取り、ある決断に迫られた。

いや切符を取った瞬間、既にその決断は決まっていたのであった。

 

「届ける!」

もはや猶予はなかった。すぐに席を立ち、閉まる寸前であろう扉へ向う、すいません降りますと声をかけながら、やや強引であるが乗客を掻き分け電車を飛び降りた。

まだすぐ近くにいるであろうその人を目で追った。

 

「いた!」

見つけるのは容易であった。

この駅は乗降客が少なく、改札出口に向かう人の中に彼女を見つけた。僕の隣に座っていたのは女性で、混雑した車内を降り難くそうに鞄を抱え、困った様子の後ろ姿が印象的だった。

距離はかなりあったが、急いで彼女を追う必要も無かった。

彼女は切符を持っていないのである。きっと自動改札の手前で慌てた様子で切符を探し始める。確実に追いつくのである。

ポケットの中、財布の中、鞄の隅々まで、おそらく何度も何度も探す彼女、その彼女へと、ゆっくりと向かへば、いいのである。

 

どう声をかけた方がいいだろうか? タイミングは? 

彼女が困ってる様子を十分に見届けた後、声をかけるのが効果的だろうか、いや意地悪すぎる。

急いで駆け寄り息を切らせて、切符を差し出すのが、効果的だろうか

彼女の所へ歩を進めながら、切符を渡した後の彼女の反応も含め、妙な妄想が浮かんでしまうほど、まだ距離と時間の余裕があった。

 

ところが妙な事が起こった。

彼女は普通に自動改札を通り抜けて行った普通に

自動改札の前に辿り着いた僕、どんどん遠ざかる彼女、そして彼女は視界から消えていった。

 

「これは一体どうしたことか?」

この事態の急変を認識したが、何を理解しなければいけないのか、それがまだ理解できておらず、自動改札の前で切符を見つめながら立ち止まってしまった。

切符を持ち自動改札の前で立ち止まる僕を怪訝そうな様子で追い抜き出ていく人たち、一旦、ホームへ引き返し、切符を渡し乗ろうとしてた次の電車を待つことにした。

 

次の電車まで、かなり時間があった。

電車男、いや切符男になり損ねた妄想がようやく晴れ、考えたくもないが、考えてみた。

忘れられた切符を届けよとしただけなのである、それが今はこの切符と途中下車したホームのベンチで見つめ合いながら電車を待っている。

 

ここに至ってしまったある盲点、重大な誤りを発見したのであった。

そしてここから奇跡の逆転劇が始まる!!

 

続く…